大貫智子「韓国文化を楽しむなら加害の歴史に向き合うべきか」(毎日新聞)の記事削除について

2023年2月16日一橋大学大学院社会学研究科准教授 加藤圭木一橋大学名誉教授 吉田裕 はじめに  2023年…

2023年2月16日
一橋大学大学院社会学研究科准教授 加藤圭木
一橋大学名誉教授 吉田裕

はじめに

 2023年1月15日(日)に毎日新聞「政治プレミア」に有料記事として、政治部記者の大貫智子氏のコラム「韓国文化を楽しむなら加害の歴史に向き合うべきか」(現在は削除。以下、「大貫コラム」とします)が掲載されました。

 「大貫コラム」は、加藤圭木監修、一橋大学社会学部加藤圭木ゼミナール編『「日韓」のモヤモヤと大学生のわたし』(大月書店、2021年、以下ゼミ書籍とします)、および同ゼミの学部生が2022年11月19日(土)に開催した学園祭のイベント「モヤモヤ本のその先へ〜みんなで話し合う「日韓」のモヤモヤ」(於一橋大学、オンライン配信併用、以下学園祭イベントとします)をとりあげたものです。

 以下で述べるように「大貫コラム」は加藤ゼミ側への取材をしていない上に内容面でも不適切な点がありましたので、毎日新聞社に対してその旨を申し入れしました。

 その結果、2023年2月11日(土)に毎日新聞社は「大貫コラム」について「取材に不十分な点があった」と認め、記事を削除しました。次いで、2月15日(水)には毎日新聞社より直接の謝罪を受けました。

 以下、この文書は、ゼミ書籍の監修者にしてゼミの指導教員である加藤圭木(一橋大学准教授)と、ゼミ書籍の推薦人である吉田裕(一橋大学名誉教授)より、記事削除ならびに謝罪に至った経緯の詳細をご報告するものです。

  1月19日(木)にゼミ書籍の公式Twitterアカウントにおいて「大貫コラム」に対する批判をしたところ多くの方からご意見をいただいたという経緯がありますので、私たちとしては本件について説明する社会的責任があると考えております。

ゼミ書籍の刊行と学園祭イベント 

 まず「大貫コラム」でとりあげられたゼミ書籍と学園祭イベントについて簡単に紹介します。

 ゼミ書籍は、2020年度加藤ゼミの学部生5名(現在は大学院生と社会人、以下ゼミ書籍著者とします)が1年かけて執筆し、2021年7月に刊行された近代日朝関係史の入門書です。2022年4月に累計1万部を超え、現在は6刷となっています。

 「植民地支配についてはいろいろな意見があって、なにが本当かわからない」「K-POPファンだけど、歴史問題の話題になるとどう考えたらいいかわからない」といった身近な疑問をスタート地点として、近現代日朝関係史および朝鮮植民地支配の歴史を解説するとともに、この問題に関して著者を含む人びとが向き合うべき課題について論じた本です。

 念のため申し上げますと、ゼミ書籍は、「大貫コラム」のタイトルのように「韓国文化を楽しむなら加害の歴史に向き合うべき」といった主張をしたものではなく、韓国文化を楽しむか否かにかかわらず加害の歴史に向き合うことを訴えたものです。「大貫コラム」の記述だけを読むと誤解が生じる可能性がありますので、この点は強調しておきたいと思います。

 次に、学園祭イベントは、2022年11月19日(土)に一橋大学の学園祭の一企画として加藤ゼミ主催で開催されたものです。事前申込制とし、対面での開催に加えて、オンライン配信(中継および後日配信)を実施しました。

 このイベントは、ゼミ書籍を読んでゼミに入った現役学部生が、「私たちにもなにかできないだろうか」と考え、自ら発案・企画したもので、ゼミ書籍を題材として現役学部生とゼミ書籍著者(大学院生・社会人)らが登壇してパネルディスカッションをおこないました。

 なお、学園祭イベントは、ゼミ書籍を読んで理解してくださっている方々を主たる対象として企画したものでしたので、その内容が不特定多数に発信されることを前提としたものではありませんでした。

 また、学園祭イベントのテーマはセンシティブな内容であることから、学部生・大学院生や登壇者の人権保護や安全の確保に細心の注意を払って実施しました。参加者の方々にもこれらの点についてご協力をお願いした上で開催しました。

「大貫コラム」の掲載とゼミ書籍著者による批判

 前述の通り、2023年1月15日(日)に「大貫コラム」が毎日新聞社サイトに掲載されました。「大貫コラム」は紙面には掲載されないインターネット限定の記事であり、最初の1000字程度が無料でしたがコラム全体を読むには有料会員となる必要がありました。

 「大貫コラム」は、「〔日韓〕両国とも過去の歴史にとらわれすぎず、対等なパートナーとして接することが重要ではないか」と主張するものです。この結論に向けて、まず大貫智子氏は次のように問題提起しました。

久しぶりに日韓関係において明るい話題が多い中、やや気になる動きがある。一部の日本の若者の間で、「韓国文化を楽しむには日本の植民地支配への反省が必要だ」という考え方が一定の支持を得ていることだ。文化を楽しむにも、加害者と被害者という構図にとらわれなければならないのか。こうした発想は、日韓関係を本当に好転させるのだろうか。

 その上で、「やや気になる動き」の具体例としてゼミ書籍を紹介しています。続けて、「インターネットを検索してみると、22年11月19日、執筆を担当した当時の学生や、現役の学生によるセミナーがあった」(主催者・イベント名・開催地の記載なし)として、学園祭イベントをとりあげ、学年・性別を特定した上で現役学部生の発言(ゼミ書籍に関する感想等)を引用しています。なお、大貫氏は学園祭イベントには対面参加はしておらず、配信動画を視聴してコラムを執筆しました。繰り返しになりますが、本イベントは事前申込み制であり、インターネット上で不特定多数に公開されたものではありません。

 以上のようにゼミ書籍およびゼミの活動に言及した上で、大貫氏は次のようにゼミ書籍を批判しました。

この本に対しては、日韓関係の専門家から「学生の問題意識は良いが、結論がバランスを欠いている」という指摘が出ていた。参考文献が日韓の左派系識者の著書に偏っており、韓国全体を正確に理解するには不十分なためだ。

 匿名の「専門家」による批判を掲載することはアンフェアですし、これでは反論することもできません。また「左派系識者」とのレッテル貼りは問題です。このような学問的とは言いがたい発言が「専門家」からなされたというのは、研究者である私たち(加藤・吉田)の立場からすると到底信じがたいもので、匿名という形をとって大貫氏個人の見解を示したものであるようにも思われました。

 そして、看過できないのは、コラム執筆にあたって大貫氏がゼミ書籍著者・加藤ゼミ・加藤個人に対して直接の取材を一切おこなっていなかったということです。すなわち、ゼミ側に一度たりとも連絡をとらずに、突然コラムにおいてゼミ側に対する批判をおこなったのです。ゼミ側からしますと、「大貫コラム」の掲載は寝耳に水だったのです。

 当然のことながら、動画の視聴だけでは取材をしたということはできません。ましてや批判をするのであれば、直接当事者の声を聞くことが必要だったはずです。

 他社のものではありますが「朝日新聞記者行動基準」においては、取材は当事者に直接会うことが基本とされており、特に記事で批判の対象とする可能性がある当事者の場合は極力直接会って取材するとされています。加えて、「記事が特定の個人や法人などを批判したり、意に沿わない内容になったりすると想定される場合、その当事者の主張や反論も十分、取材した上で、掲載する時は、読者にもその主張や反論が明確に伝わるよう努める」とされています。

 また、ゼミ書籍に対する批判は、学園祭イベントでの現役学部生の発言を引用した直後になされていました。文脈上、批判の矛先は現役学部生たちに対しても向けられているように思われます。許可なく発言を引用された学部生は、「大貫コラム」に関して、「一生懸命つくりあげた自分たちの企画が、このような形で貶められたことが許せない。私たちの主体性を無視する悪意のある記事であり、馬鹿にされていると感じた」、「私たちが浅はかな考えでイベントやゼミの活動をやっているかのように印象操作されている。私たちのことを侮辱している」、「ゼミ書籍の読者を主たる対象として開催したイベントだったにもかかわらず、許可を得ずにイベントでの発言を全国紙のコラムに掲載することはありえない。つるし上げのようである。また、誰の発言なのかは簡単に特定できるので、プライバシーの侵害である」と問題点を指摘していました。

 以上のとおり、「大貫コラム」は極めて不適切な内容であり、記者としての資質に欠けていると疑わざるをえないほど無責任なものでした。

 「大貫コラム」に対しては、まず、ゼミ書籍著者が公式Twitterアカウントにおいて、批判のツイートをおこないました。記事の問題点として、1) 主張の問題性(「前提として韓国文化を楽しむか否かにかかわらず、日本の加害の歴史には向き合うべきです。植民地支配した側とされた側の非対称性や日本が未だに加害の歴史に真摯に向き合っていないことを考えれば、加害者側から「過去の歴史にとらわれすぎず、対等なパートナーとして」と言うことは暴力的です」と指摘しています)、2) 「専門家」の名前を出さずに本書を批判する報道姿勢、3) 歴史研究の成果を反映した本書の内容を偏っていると一方的にレッテル貼りしている点をあげた上で、現役学部生をおとしめる記述になっていること、大貫氏がゼミ側に一度も取材していなかったことを指摘しました。このツイートは大きな反響を呼び、12.6万回表示された上に600回以上リツイートされ、1100件以上の「いいね」がつきました(2023年2月15日現在)。ゼミ書籍著者の立場を支持する声が多数寄せられました。

 学部生・大学院生の教育に責任を持つ立場にある加藤は、「大貫コラム」の取材方法や内容が不適切であることはもちろんのこと、ゼミ書籍著者(大学院生・社会人)やゼミ所属の学部生に対する不当な攻撃となっていること、ゼミの教育環境を脅かし学部生や大学院生らを傷つけたものであったことから、到底看過することはできないと判断し、対応策の検討を開始しました。

毎日新聞社への抗議

 上記のゼミ書籍公式アカウントによる批判が出された直後、おそらくそれを読んだ方が毎日新聞社に対して取材せずにコラムを執筆したことは問題であるという趣旨の問い合わせをしたようでした。これを受けて、1月20日(金)に大貫智子氏より一橋大学大学院社会学研究科事務室の総務担当に対して、加藤宛の問い合わせのメールが届きました。学園祭イベントの内容を報じてはならなかったのではないかとの問い合わせが毎日新聞社にあったとして、ゼミ側として報道を許可していなかったという認識なのかどうかを問い合わせるものでした。

 このメールには応答せずに、対応を慎重に検討した上で、1月28日(土)に加藤は毎日新聞社の問い合わせ窓口に対して、抗議の文書を送付しました。その主な内容は以下の3点です。

(1)「大貫コラム」の掲載にあたって、当該書籍の著者ならびに学園祭のイベントを主催した学生たち、監修者および指導教員である加藤に対して、取材の申込みや通知は一切なかったことは問題である。

(2)当該イベントはセキュリティに細心の注意を払って実施したものであり、そのことは大貫氏も理解していたはずであるにもかかわらず、一本の連絡もなく報道したことは問題である。学生や登壇者の安全やプライバシーの問題を考慮する必要があったはずである。学生が特定される可能性も否定できない。加藤ゼミとして報道を許可したとの認識はない。

(3)「日韓関係の専門家」の名前をあかさないまま本書を批判した点は報道姿勢として疑問であるし、アンフェアである。また、「左派系識者」という評価は非常に曖昧な概念で、レッテル貼りとなっているので問題である。

 土日は毎日新聞社側の担当者が不在とのことでしたが、30日(月)には「毎日新聞社愛読者センター」から「対応いたしますので、しばらくお待ちください」とのメールが加藤の元に届きました。

 31日(火)には、社長室広報担当の石丸整氏から加藤宛で連絡があり、今回の件に対応するために面会したいとのお申し出がありました。

 そこで、面会に応じる旨を連絡しました。

毎日新聞社側との面会

 2月7日(火)14時より毎日新聞社の編集編成局政治部長中田卓二氏、社長室広報担当石丸整氏が一橋大学に来校され、加藤と吉田が面会しました。

 まず、毎日新聞社側からは、本件は編集編成局だけの問題ではなく、全社的な問題であるとして、政治部長だけではなく、社長室広報担当が一緒に対応するとの説明がありました。

 その上で、加藤が送付した抗議文に対して、以下のような回答がありました。(1)加藤ゼミ側への取材がなかったとの指摘については、取材をするべきであったと考えている。(2)認識の齟齬があってはまずいので大貫智子氏より加藤に確認のメールを送ったが、いずれにしても報道の許可があったかどうかについて事後に確認するのではなく事前にすべきであった。また、学生が特定される可能性があるとの指摘はそのとおりであり配慮が足りなかったので、お詫びする。(3)「専門家」の批判に関しては「日韓関係の専門家から本に対する指摘が出ているがどのようにお考えか」などといった形で加藤に対して取材をするべきであった。

 (3)について、吉田から、他人の本を批判する際に、匿名で批判するということはありえないことを指摘した上で、「大貫コラム」で報じられている批判は研究者の発言とは信じがたいものでありこのような研究者が実在するのか疑問であるとして、本当に取材しているのかしっかりと確認してほしいと強く要望しました。これに対して、毎日新聞社側からは、事前に取材していれば匿名の批判については加藤ゼミ側から指摘が入ったであろうと考えられ、そういったことを踏まえてもきちんと取材するべきだったとの発言がなされました。その上で、「専門家」が実在するのかどうかについてはあらためて調査するとの回答がありました。

 次に加藤からは、どのような経緯で「大貫コラム」が掲載されることになったのか、チェックはどのようにおこなったのかを質問しました。これに対して、「政治プレミア」の編集長、政治部長がチェックした上で、形式的な部分について校閲担当がチェックするという回答がありました。政治部長の中田氏はコラムの原稿を読んだだけでは取材をしていなかったことは読み取れなかったとし、大貫氏が実名を出して執筆しているコラムであるのでよほどのことがないかぎり内容面で修正を要求することはない、などと説明しました。

 続いて、加藤より当事者であるゼミの学部生・大学院生が大変ショックを受けていることをお伝えしました。

 その上で、対応策として、こちらから以下の点を要求しました。

 ①記事に不適切な点があったことを認めて公の場(具体的にはウェブサイト上)で表明し謝罪する、②記事を撤回する、③当事者である学部生・ゼミ書籍著者(大学院生・社会人)に謝罪する、④再発防止措置をとる。

 これらの要求について、毎日新聞社側が持ち帰り検討することになりました。

毎日新聞社側の対応

 2月9日(木)に社長室広報担当石丸整氏からメールが届きました。

 そこでは、記事を削除すること、削除したことがわかるようにタイトルのみを残し、削除した理由として「取材に不十分な点があったため、 記事を削除しました」との一文を添えること、さらには面会の上で加藤ゼミ側に謝罪する、との提案がありました。

 また、「日韓関係の専門家」については名前が明かされることはありませんでしたが、専門家の存在を確認したとのことでした。

 さらに、「再発防止策として本人を厳しく指導すると共に、 これを教訓として社内で生かして参ります」との表明がありました。

 以上を受けて、当事者である学部生・ゼミ書籍著者と相談しました。

 その結果、公開の場(ウェブサイト上)での謝罪表明がないことは問題であり、この要求を取り下げることはできないものの、その他の部分については評価できるとし提案を受け入れるという判断に至りました。

 2月10日(金)に加藤より以下のお返事をお送りしました。

前回の面会ではウェブサイト上で謝罪することを要求したものの、今回のご提案ではその点については残念ながら合意に至らなかったと認識しております。
ウェブサイト上での謝罪の要求を取り下げるものではありませんが、取材が不十分であったことを明確にした上で記事を削除する点、削除したことが分かるようにする点、当事者であるゼミ生に直接謝罪する点などについては評価することができますので、ご提案を受け入れたいと思います。
面会の日程調整と記事の削除を進めていただきますようお願い申し上げます。

当事者であるゼミ生に面会して謝罪されることは大変重要なことです。
くれぐれもゼミ生の意見に耳を傾けてくださいますようお願い申し上げます。

 加藤からの返信を受けて、2月11日(土)の18時過ぎに記事が削除され、石丸氏よりその旨の連絡がありました。

ゼミ側への謝罪

 2月15日(水)16時40分より一橋大学に政治部長の中田氏と社長室広報担当の石丸氏が再度来校し、加藤・吉田の立会いの下、ゼミ生(学園祭イベントに登壇した現役学部生や、ゼミ書籍著者を含む)に対して直接謝罪しました。

 その後、ゼミ生より意見を述べました。主な内容を以下に示します。

  • 毎日新聞社として対応した点は重要であるが、直接の当事者である大貫智子氏が最初から最後まで出てこないことは疑問である。大貫氏が本件をどのように考えているのか不明である。大貫氏には、しっかりと反省して謝罪文を出すなどの形で誠実に対応してもらいたい。
  • 学園祭イベントでの発言が断りなく全国紙ウェブサイトのコラムに掲載されて批判されたことは大変恐怖を感じる出来事であったし、今もその恐怖は消えていない。安心して学べる環境を壊されたと感じている。
  • 「大貫コラム」によって、学部生やゼミ書籍著者に対するネット上での攻撃など二次加害が引き起こされている。
  • このゼミでは人権の観点を重視して歴史を学んでおり、学園祭イベントもそのような趣旨で実施したにもかかわらず、「大貫コラム」はそれを全くといっていいほど踏まえていない。「大貫コラム」には人権の観点が一切ないように思われた。
  • 「大貫コラム」によって、私たちが傷ついているということを大貫氏にしっかりと伝えて欲しい。
  • ゼミ生の側は特定可能な形で報じられたのに、「日韓関係の専門家」は匿名で批判しており不公平である。
  • 毎日新聞という日本を代表する全国紙のコラムであるため影響が大きく、重大な問題である。メディアの権力性をしっかりと認識してほしい。
  • 大貫氏は他の大学の学生には取材している一方で、加藤ゼミには取材していない。取材しなくていいと思われたということで、非常に見下されていると感じる。
  • 記事を削除したことは評価できるが、どのような理由で削除したのか、なにが問題だと認定されたのかが示されていないことは、率直に言えば疑問に感じた。また、削除された記事にはタイトルだけが残されており、大貫氏の名前は削除されている。これでは大貫氏に責任があることがわからない。
  • 当事者に取材しないことはありえないことである。あらためて強調しておきたい。
  • 「大貫コラム」のように明らかに問題を抱えている記事が、チェックをすり抜けて、大手メディアのウェブサイトに掲載されてしまったことにショックを受けた。
  • 「大貫コラム」は大貫氏と同じ意見だけを取り入れて構成しており、記事として重大な欠陥がある。
  • 現状ではゼミ側に対する不当なバッシングだけが世の中に拡げられた状態であり、これは訂正されていない。なんらかの対応が必要である。

 その上で、「大貫コラム」に関連して、日韓関係や日朝関係の報道のあり方について意見を伝えました。

  • 「大貫コラム」は「加害者と被害者という構図にとらわれなければならないのか」と主張しているが、そもそも日本側が真摯に加害の問題に向き合ったことはないのであり、加害者・被害者の非対称性をしっかりと認識することが必要である。メディアの役割はそのような点を踏まえて、報じることにあるのではないか。
  • 外交問題としてのみ論じるのではなく、人権問題として、日韓・日朝間の歴史問題は論じる必要がある。これらのことは歴史学界や社会運動においても強調されていることであるが、報道にあたってはそれらの声をきちんと踏まえてほしい。
  • 「大貫コラム」は韓国社会において過去を軽視するあり方が主流になっているかのような印象を与えかねない書きぶりとなっており、客観性の面で問題であるように感じられた。

 中田氏と石丸氏はゼミ生一人一人の意見に対して丁寧に応答した上で、「大貫コラム」の取材が不十分だったことをあらためて認識したと表明しました。また、記者個人を厳しく注意したこと、そして、今後も指導していくことを明らかにし、上記のゼミ側の意見を大貫氏はもちろんのこと社内にも伝える、などと述べました。

 おわりに

 ゼミ側が要求した一部の項目が反映されなかったことは残念であるものの、今回、毎日新聞社が本件を全社的な問題として捉え、大貫智子氏の取材が不十分であったことを公式に認めた上で記事を削除したこと、政治部長の中田氏と社長室広報担当の石丸氏が2度にわたって来校し、ゼミ生に直接謝罪し、ゼミ生の意見を丁寧に聞き取ったことなどは、相当に踏み込んだ対応であると考えられ、評価することができます。

  ただし、「大貫コラム」によって不当な攻撃の対象とされ精神的ショックを受けた学部生・ゼミ書籍著者が、毎日新聞社として本件に対応したことは重要であるとしつつも、直接の当事者である大貫智子氏に誠意ある対応をとってほしいと考えていることをあらためて強調したいと思います。

 また、2月8日(木)の社長室広報担当石丸氏のメールにおいて「再発防止策として本人を厳しく指導すると共に、 これを教訓として社内で生かして参ります」と明言したこと、さらに2月15日(水)の面会時にゼミ生の意見を大貫氏および社内に伝えるとの表明があったことは重要です。毎日新聞社の今後の取り組みを注視したいと考えます。

※本記事はhttps://researchmap.jp/blogs/blog_entries/view/92532/73276bdf391f276759604406be5f8d4f?frame_id=694329より転載したものです。

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